トヨタ自動車が2025年3月3日、同社として初めての株主優待制度の導入を発表しました。日本を代表する世界的企業が長らく実施してこなかった株主優待を新たに開始するというニュースは、多くの人々の注目を集めています。特に興味深いのは、この優待が同社のスマホ決済アプリ「TOYOTA Wallet(トヨタウォレット)」と密接に連携している点です。今回は、トヨタの新たな取り組みの詳細とその背景について掘り下げてみたいと思います。
待望の株主優待制度:その内容と特徴
トヨタが導入する株主優待は、2025年3月末時点で100株以上を保有する株主を対象としています。保有株数と保有期間に応じて、500円から最大3万円分の「TOYOTA Wallet」残高が付与されるというもの。具体的には、100株以上を1年未満保有している場合は500円分、1年以上3年未満なら1,000円分、3年以上継続保有なら3,000円分となります。さらに、1,000株以上を5年以上継続保有する株主には、30,000円分のウォレット残高が贈呈されます。
また、保有株数や期間にかかわらず全株主を対象とした抽選優待も用意されています。世界耐久選手権や全日本スーパーフォーミュラ選手権などのモータースポーツ観戦チケットや、シートベルトの端材を活用した「TOYOTA UPCYCLE」のトートバッグやペンケースなどが当たる抽選に応募することができます。
TOYOTA Walletとは何か?
実はトヨタの株主優待発表を受けて、多くの方が「トヨタウォレットって何?」「どこで使えるの?」という反応を示していました。トヨタウォレットは、トヨタファイナンシャルサービスが運営するスマートフォン決済アプリです。このアプリを通じて、自動車クレジット(ローン)の申込みや管理、スマホ決済、カーライフサポートなどの機能を利用することができます。
具体的に「現金派の方にも、自動車クレジット(ローン)による毎月の支払い派の方にも、TOYOTA Walletであなたに合った上手なお支払い方法をサポートします」とアプリの説明にあるように、トヨタ車の購入や車検費用のお支払いはもちろん、コンビニやスーパーでの買い物にも利用可能です。
2021年11月には「QUICPay+」を追加するなど、決済サービスの拡充も行ってきました。アプリでは決済履歴の確認やチャージ、各種通知の受け取りも可能で、日常生活のさまざまな場面での利用を想定しています。
なぜ今、株主優待を始めたのか?
トヨタはこれまで株主優待を実施してきませんでした。日本を代表する企業であるにもかかわらず、なぜ優待がなかったのか?それは、トヨタの経営哲学に関係していると考えられます。
トヨタには「本業の成長が、株主への価値還元に他ならない」という考え方がありました。イノベーションを通じてより大きな付加価値を創造し、その収益の一部を配当や自社株購入という形で株主に還元するという基本的かつ本質的な価値還元の方針を重視してきたのです。「商品券を配るなら、配当金を積み増せばよい」という考え方もあったようです。
しかし、今回この方針を変更し株主優待を導入した背景には、いくつかの要因が考えられます。
まず、トヨタは株主優待導入の目的を「株主の皆様の日頃のご支援に感謝するとともに、当社関連サービスの利用を通じて、当社グループの事業に対する理解をより一層深め、より多くの投資家の皆様に当社株式を長期にわたって保有いただくこと」と説明しています。特に個人株主に長期保有してもらうことを重視している点が明確です。
また、新NISA(少額投資非課税制度)の導入により個人の株式投資が増加していることも背景にあるとされています。2024年3月末時点でのトヨタの株主数は94万人を超えていますが、株主構成で見ると個人・その他の比率は12.6%にとどまり、外国法人や金融機関などが約9割を占めているという状況があります。この個人株主の比率を高めたいという思惑もあるでしょう。
トヨタウォレットと株主優待の連携戦略
株主優待とトヨタウォレットを結びつけたことには、より深い戦略的意図があると考えられます。まず、トヨタウォレットの認知度と利用者拡大を図るという狙いが透けて見えます。「トヨタウォレット普及させたいという思惑が透けて見える」という声もネット上であがっています。
実際、トヨタウォレットは自動車購入や車検などの大きな出費だけでなく、日常の買い物にも使える決済アプリとして設計されています。しかし、その知名度はまだ高くなく、株主優待の発表を契機に初めて存在を知ったという人も多いようです。
トヨタがウォレットアプリを通じて目指しているのは、「どこでも・誰でも使える」シームレスなサービスの実現です。「モビリティ社会の基盤づくりに貢献するにはなくてはならないプラットフォーム」となることを将来ビジョンとして掲げています。つまり、単なる決済手段を超えて、人々の移動や生活全般をサポートするプラットフォームへと発展させる構想があるのです。
株主優待で付与されるTOYOTA Wallet残高を使うためには、当然そのアプリをダウンロードし、使い方を学ぶ必要があります。これにより、自社サービスへの理解を深めてもらうとともに、新たなユーザー獲得にもつなげられるという一石二鳥の効果を期待しているのでしょう。
変化するトヨタの企業戦略
トヨタのこの決断は、同社のビジネス戦略が変化していることを示しています。長らく「モノづくり」を中心としてきたトヨタですが、近年は「モビリティカンパニー」へと変貌を遂げようとしています。自動車を単に製造・販売するだけでなく、人々の移動や生活をトータルでサポートするサービスへの展開を進めているのです。
トヨタウォレットは、その戦略の一部と言えるでしょう。自動車の購入や維持にとどまらず、日常の買い物や様々なサービスの利用まで、生活のあらゆる場面でトヨタが関わっていくための入り口となります。そして株主優待はその入り口へと人々を誘導する手段となるのです。
世界を代表する日本企業の新たな挑戦
トヨタは日本が世界に誇る企業であり、その時価総額は他の日本企業を大きく引き離しています。2017年時点では約23兆円で、2位のNTTの約12兆円と比べても約2倍の差があったとされています。そんな巨大企業が、今まで行ってこなかった株主優待を開始し、同時に決済サービスの拡充を図るという動きは、日本企業のデジタル化や顧客との新たな関係構築の一例として注目に値します。
トヨタの株主優待は、単なる株主サービスを超えて、同社の未来戦略を垣間見せるものとなっています。自動車メーカーとしての枠を超え、人々の生活に深く関わるプラットフォーム企業へと変貌を遂げようとするトヨタの姿勢が、今回の取り組みからも読み取れるのではないでしょうか。
これからもトヨタがどのような革新を続け、世界市場でどのような存在感を示していくのか、引き続き注目していきたいと思います。
情報源
https://www.toyota-finance.co.jp/newsrelease/entry/20211105_1.htm
https://global.toyota/jp/ir/stock/yutai/index.html
https://toyota.jp/info/thanks-from-toyota-https://faq.toyota-wallet.com/faq/show/35?site_domain=default